乱読乱話  久和山武輝

そこは雪国だったか

  川端康成「雪国」の冒頭の文章は有名で、諳んじているかたも多いだろう。たいがいのひとは「国境の長いトンネルを抜けると、そこは雪国だった」と記憶しているという。正しくは「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」である。川端康成は”そこは”なんてダサイ言葉は入れていない、”そこは”を入れないところが優れた小説の冒頭の文章なんだと向井万起男は語っている。文芸評論家顔負けの鋭い指摘である。
 向井万起男「ハードボイルドに生きるのだ」講談社刊を書名に興味を覚え読んでみた。作者は本業が病理学の医師であるが、堅苦しくなく実に面白いエッセイ集である。私の読書日記(1)で紹介されている書籍が幅広いのには驚かされる。早速購入して読んでみたくなる本ばかりである。1000年後に世界で読み継がれている日本の小説があるとしたら、○○だろうという本も紹介されている。○○に関心のあるかたは、同書を購入されたい。
 医学の話題では、CTスキャンの登場にはビートルスが貢献しているという隠れたエピソードが語られている。イチローや松井の活躍でニワカ大リーグファンも多くなった。著者は子どものころから、自称熱狂的な大リーグファンである。大リーグにまつわる話題も興味深いものがある。
 向井万起男は、本業は作家ではない。作家ではないが、文章のうまさと話題の奥深さには感心する。日本人女性宇宙飛行士、向井千秋さんの夫でもある。有名人の夫はつらいよが話しのオチでもある。ハードボイルドに生きるのは男のあこがれであるが、人真似では本物になれない。男はつらいものである


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