時代小説とのつきあい
時代小説の正確な定義は知らない。ここでは、時代背景が明治以前の主
として江戸時代の小説を指すことにする。封建体制、身分社会、鎖国とい
う閉鎖社会にあこがれている訳ではない。むしろ自由、平等、公正公開の
原則をもっと進めることを望んでいるひとりである。もし、江戸時代にタ
イムスリップして生活することになったら多分発狂してしまうだろう。
がんじがらめに制約されていた江戸時代にも約二千万人から三千万人の ひとが生活していた。このくにがなんとか自給自足できた人数である。約 1割が武家階級とその周辺に属するひとである。国内が300ほどの藩に分割 され、言葉も違えば、貨幣も異なっていた。ほとんどのひとは、自分の生 地から外部に出ることはできない状態である。仕事は親の仕事を継げるの は長男だけであり、次男以下は養子に行くか、他家の使用人になるしか生 きるすべがない。女性も同様で嫁に行くか女中奉公くらいしか働き口がな い。一生独身であった男女が半数以上であったという。そんな時代であっ たが、時代小説は面白いし感動する作品が多い。 好きな作家に滝口康彦がいる。多作な作家ではないし、版元も光風社、 立風書房などである。映画「切腹」、「上意討ち」の原作者として知られ ている作家である。短編小説はまさに珠玉の作品である。封建時代という 極端に制約された社会を端然と生きた男女の姿が無駄のない筆使いで活写 されている。江戸時代は不合理だらけであった。しかし、滝口康彦の作品 にはいつの時代にも共感できる人間の魂の叫びを聴くことができる。1字 一句一行をゆっくり余韻を楽しみながら読める数少ない作者である。時代 小説とのつきあいはながくなりそうだ。 ●前のページへ |