こらむネタ帳 久和山武輝

フーさんとのつきあい

 フーさんは骨太で大柄である。全体に色黒で、アメ色のフーさんと評さ れている。顔も大ぶりで、しぐさもゆったりとしており中国の大人風であ る。風貌をみただけで親しく近づきたい人物とはいえない。それでもまわ りのひとには、なんとなく信頼感を与える不思議な人物である。知人の紹 介でフーさんとおつきあいすることになった。
 月に一度ほどのつきあいであるが、会うたびにますますフーさんの魅力 にとりつかれてしまった。フーさんは広島県の江田島にあった最後の海軍 兵学校入学生であった。卒業することもなく日本は敗戦となった。戦後は 何もすることがなく、新宿で闇市の仕事をした。二十歳そこそこの青年に とって新宿は、はじめての戦場であった。なんでもありで、体力と少しば かりの頭脳が支配する世界である。そのころの新宿は、焼け野原で地主も 定かでなかったという。歌舞伎町コマ劇場あたりの土地約100坪買取の話が あった。しかし、若者にとっては土地よりオシャレである。土地は新しい 背広に革靴とほぼ同じ値段であったが、フーさんはオシャレに投資した。
 その後、都心と埼玉県を結ぶ私鉄開発計画に参加した。まぼろしに終わっ た武州鉄道計画である。その計画に群がった実業家、政治家、虚業家、暴 力団の話しを聞いた。権力、金力、暴力が交差する凄い世界であった。こ の話は、いずれ小説に仕立てようと考え、資料を集めはじめていた。当事 者であったフーさんの話しを原点にするので、本人の承諾が必要である。 その後、フーさんとも遠ざかっていたので、お会いするため年賀状を出し た。しばらく経ってから奥様から返事がきた。主人は昨年急逝したとのこ とである。フーさんとのつきあいは短いものであったが、心に残るひとで ある。了解を得ていないので小説に仕上げることはあきらめた。合掌。

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