眠れない夜に読む本
人生で過ごす時間の三分の一は睡眠中である。快眠快食が健康のコツと
古今東西の書に共通して書かれている。睡眠ほど心地よいものはないとは、
健康なひとか若者に与えられた特権である。平和なこの国でも不眠症に悩
んでいるひとが増えているという。充分に食べられ、生命の危険の少ない
国なのに不思議な現象である。受験期のころは、寝たいだけ寝るのが、さ
さやかな夢であった。大学に入るとその夢が実現できた。駆け出し編集者
になると、休日にゆっくり朝寝坊するのがささやかな楽しみであった。
ところが、ささやかな朝寝坊を楽しめるひとが少なくなっているという。 現在の日本ほどめぐまれている国民は少ないと思う。不安や不満はたくさ んあるのは、わが身に照らしてもわかる。貧しくてもなんとか食事にこと 欠くことはない。狭いながらも雨露をしのげるねぐらはある。治安は多少 悪くなっているが、爆弾テロや空爆のおそれはない。忙しくても、睡眠時 間はある。睡眠時間はあるのに眠れないのである。体力差はあるが、人間 は飲まず食わずでも約10日間は生きられるという。拷問の方法に眠らせな い罰があると聞く。5日間も連続して眠らせないと自白するか発狂するとい う。睡眠は人間にとってそれほどたいせつなものなのである。それでも眠 れない。眠くならないという。本人にとってはこれほど苦しいことはない だろう。薬やアルコールに溺れるひとも多い。お気の毒なことである。 面白い本を読んでいると、わくわくして眠くならないことがある。明日 の予定があるのに睡眠時間を削って読み切ることになる。どんな長編でも 終わりがない本はない。読み切ったあとは満足して、短時間でもぐっすり 眠れる。自分に向かない本や駄作を読んでいると眠くなる。読み進めるに したがい、面白くなるだろうと期待してもなかなか面白くならない。その うちに眠くなってしまう。不眠症のかたには、この手の本をすすめたい。 書店に行けばたくさんある。たくさんあるので無理してさがすことはない。 手にした本を迷わず買うことである。睡眠時刻になったらページを開けば よい。しばらくすると必ず眠くなることうけ合いである。世の中には、い ろいろな役に立つ本がたくさん出版されている。あるひとたちにとっては 芸術的珠玉の傑作であっても、別のひとには睡眠薬的駄作になるので、本 の世界は面白い。 ●前のページへ |