こらむネタ帳 久和山武輝

はじめて、かんたん、できる

 はじめて、かんたん、できるは、パソコン解説書の書名の冒頭に多く つけられている。パソコン書の版元が、あたかも専売特許のように各社 で用いている。これらの書名はパーソナルコンピュータが一般市販化さ れる以前から、多くの入門実用書などの定番書名であったことは、ベテ ランの編集者は知っている。
 初心者向けの書名に困ったときには、苦肉の策として入門ということ ばがつけられ、現在も続いている。入門を頭に置くか、尻尾につけるか によって、各社で書名の棲み分けをしていた時期もあった。  入門書は、比較的安定して売れる分野である。あたらしく何かを学ぼ うとする読者は、自分が初心者であることを承知しているからである。 書名に入門とついていれば、安心して買えるのである。
 国内でパソコンが20万円程度で発売された四半世紀前のパソコン書 の書名は、入門が多用され、それぞれが当時ベストセラーとなった。機 を見るのに敏な版元は、われもわれもとパソコン書発行に参入した。書 店でも、パソコン書の棚を一挙に拡大した。書名に入門がつくだけなの で、書店の店頭で混乱した。読者は、版元名にはあまり関心が無いのが 実情である。そこで、版元各社が差別化のため、はじめて、かんたん、 できる、などのパソコン書のシリーズ名ができたのである。さらには、 はじめてかんたん、かんたんにできる、などのシリーズ名も開発した。
 パソコン書発行で財をなした版元もある。パソコン雑誌も100点を超 えたこともあった。5年ほど前から過当競争のツケが回ってきた。四色 刷り、上質紙、300ページ、1,300円前後では初版で大部数印刷しないと ペイしない定価付けである。増刷するにしても5,000部以下では原価割 れとなる。単色刷り、中質紙、300ページの文芸小説の定価が1,800円前 後で、3,000部の増刷でペイできる定価付けとなっている。パソコン書 の版元では、過大な在庫に苦しんでいるようである。人員のリストラも 進んでいると聞く。小説の場合は、作家がブレークすれば、3年前の作 品がベストセラーとなることもある。
 パソコン書では、3年も経てば在庫で税金を払った上に、産業廃棄物と して、別途処理費用が必要となる。はじめて、かんたん、できるのも楽 ができないのが現実である。はじめて、かんたん、できる作家の入門書 はないのだろうか。たぶんロングセラーは間違いないだろう。

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