はじめよければせっかく書店に寄ったのだからと、意地になってさがすことになる。 気に入った本を手にしたときは、すぐにレジに向かうことにしている。 以前に立ち読みをして気になっていた本を、次に寄ったときにさがし てもほとんどの場合、書店の店頭からは消えているからである。注文 しようにも書名や著者名すら、記憶があやふやとなっている。 なにげなく書店に寄った読者をとらえるものは、はじめの書き出し である。作家が書き出しに、しん吟苦悩した話しはよく聞くことであ る。構想を決めてから書き出しに数年間苦しみ、最初の1行が書けた とたんに1箇月で作品が完成したといわれている伝説の名作もあるが、 真偽のほどはわからない。 読者からすれば、書き出しに惹かれて買うのは事実である。はじめ が面白ければ、おわりまで期待することで迷わずお金を払うのである。 はじめがよくても、中途から最後にかけて裏切る作品もたまにある。 はじめがよくなくても、裏切らない作品もある。 浅田次郎の「壬生義士伝」は、冒頭から読み進めるには根気がいる。 そのうち面白くなるだろうと期待しても、なかなか応えてくれない。 それでも読み進めるうちに、いつのまにか引き込まれてしまう裏切ら ない作品である。長編大作なので、だんだん面白くするという仕掛け が仕組まれているのだろう。はじめよければすべてよしの作品もいい が、おわりに向けて徐々に面白くなる作品には深みがある。 はじめよければの人生は楽しいが、おわりよければの人生のほうが 味わいがあるだろう。人生のおわりは、だれにもわからないところが 最大の難点である。 ●前のページへ |