はぐれ記者のマスコミ見聞録  植野満

書評家の「楽天ガン日記」

 夕刊紙の日刊「ゲンダイ」は、愛読紙のひとつである。2カ月前に買っ た新聞を見てビックリした。書評家の倉本四郎さんの「倉本四郎の楽天ガ ン日記」(毎週木曜日掲載)という連載がスタートしていたからだ。その 連載で初めてガンであることを知った。
 倉本四郎さんといえば、読書好きのひとなら誰でも知っている書評家だ。 15年ほど前に「週刊ポスト」で3ページ書評を担当し、大きな話題となっ た。その内容は、著書を深く読みこなし、著者へのインタビューや調査を 徹底した多角的な視点で、その著書を”解剖”するという形の画期的な書 評スタイルだった。この書評を読んで、「書評家にはなれないな」と悟っ たものだ。
 書評家としてだけでなく、『怪物の王国』『恋する画廊』『妖怪の肖像』 など多数の著作物もあり、作家としての顔も持っている。八面六臂の活躍 をしていた、その倉本さんがまさかガンだったとはー。
 最新の4月5日号の見出しは「入院二日目。検査後、医師から抗ガン剤 使用の提案。新米患者は早くも厳しい選択を迫られる」というものだった。 よくあるようなガン闘病記ではなく、だから同情心は不思議とわいてこな い。患者でありながら自分を客観的に観察する好奇心は「書評家魂」のな せる技なのだろうか。「週1回といわず週2回連載にしてほしい」とわが ままを言いたくなるほどの読み物だ。大反響を呼んでいるのもうなづける。
 教育専門紙の記者をやっていたときに、同僚と二人で倉本さんにインタ ビュー取材をしたことがある。まだ20代半ばの頃で、未熟な記者を相手 に倉本さんは紳士的に穏やかに取材を受けてくれた。吉祥寺にある井の頭 公園入口の喫茶店で2時間ほど話をしてくれた。
 雑談のなかで、「この書評ページは誰がやってるんですか」と聞かれた ので、「編集部で書いてます」と答えたことをはっきり覚えている。当時、 編集部の独断で最終ページを書評欄にして、四人の編集部員がひとり二、 三冊を担当していた。その質問の意味は「つまらない」ということだった のか、それとも「まずまず」との評価だったのか、おそらく前者だろうが、 当時は後者だと信じていたのである。いま思えば恥ずかしい。
 倉本さんは、熊本県天草の出身で新聞社に勤務した経験がある。私はそ の天草のすぐ近くの町(三角町)の生まれなので、その関係もあって一度 だけ取材しただけなのに、勝手に親近感を持っている。私にできることは なにもないが、倉本さんには一読者としてこの連載を何百回と続けてほし いと思う。いや、ガンを克服してこの連載が打ち切りになることを願わず にはいられない。

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