「見聞録」筆者インタビュー――このメールマガジンに「はぐれ記者のマスコミ見聞録」をずっと連 載で書いていますね。3年間も同じタイトルで書き続けて、飽きませんか? 最初の質問がそれなの。そう言われれば私自身もちょっと飽きてきてい るところがあるかも。読者もそうなのかなあ。これまで新聞や雑誌記事を 書きなぐってきたけど、こんなに続いた連載ものはなかったからね。なん でだろう。やっばり発行元が規制もせずになんでも自由に書かせてくれた からじゃないかな。だからもうしばらくは続けるつもりです。 ――毎号、何千部も発行されていると聞きましたが、読者層を意識して いますか。 おそらくこのメールマガジンの読者は、文芸、出版に関係している人、 もしくはそれらに関心のある人たちでしょう。でも読者層をあまり意識し すぎると、「もっと真面目に書かなくちゃ」という気持ちになってしまっ て、短い文章でも書くのがしんどくなりますから、申し訳ないけど気楽に 書かせてもらっています。だから読者がその内容から何かを学ぶなんてこ とはひとつもないはずです。まあ読んだあとに「こいつアホだな、ウフフ」 と含み笑いをしてもらえればそれだけで満足です。 ――「見聞録」というタイトルですからその内容は本当の話でしょう。 もちろんです、と言いたいところですが、本当8割、あとの2割はちょっ と脚色しています。やはり実在する人物を取り上げる場合は、ある程度の 配慮はしなければなりませんからズバリそのままを文章にするわけにはい きません。でもウソはないですよ。私が関連した業界には、怪しげな社長 さんや悪徳業者などある意味では魅力的な人物がいっぱいいますけど”暴 露記事”をねらっているわけではないのでこの連載では登場していません 。彼らを題材にウソや作り話を織り交ぜながら小説に仕立て上げることは できるでしょうけど。 ――クレームなどはないですか。 どうでしょうか。感想などは事務局には届いているかもしれませんが、 クレームは直接的には聞いていませんね。クレームがきたとしてもそれは よく読んでいる証拠ですからむしろうれしい。紙媒体で書いていたころに はずいぶんとクレームをもらいましたが、それはそれでわくわくしました からね。そう言えば九州阿蘇に住んでいるひとつ違いの妹から以前電話を もらったことがあります。妹夫婦も購読しているらしくて、競馬のことを ネタにしたときに「兄貴も競馬するとね」「○○子さん(私のつれあい) は知っとると」とギャンブルに狂って家庭不和になることを心配して電話 をくれたようです。兄思いの妹でしょう(笑)。 ――ところで、メールマガジン発行元では、読者文芸大賞や月間エッセ イ大賞なども実施していますね。その審査員もやってるんですか。 ええ末席ですけどね。応募作品が事務局からメールで送られてくるので、 それを読んで推薦作品があれば連絡するというシステムです。正確な数字 は分かりませんが、3年間で数百作品は読ませてもらった。途切れること なく作品が寄せられているのをみると、小説やエッセイを書きたい人や作 家になりたい人は予想以上に多いんだなあ、と感じますね。パソコンが普 及したことによって文章を手軽に書ける環境ができたことも「もの書き」 志向の人たちが増えたひとつの理由じゃないでしょうか。これまでは出版 社に認められて、そして出版物にならなければ一般読者に読まれることは なかったのですが、いまは自分でホームページをつくり、そこで作品を公 表することもできますから、そのレベルはともかくいつでも誰でも”自称 作家”にはなれますよね。自分を表現する選択肢が増えたことはいいこと だと思いますよ。そのうちに”読み手”より”書き手”のほうが多くなる かも(笑)。 ――応募作品を読んでどうですか。 なかにはすでに執筆活動もしているプロ級もいますけど、ほとんどはこ れから小説やエッセイを書いていこうという人がほとんどですから完成度 という点ではまだまだでしょうね。でも文章がうまい、テーマの探し方が うまい、新しい感性を持っている、物語をつくる構成力がうまい、という ように部分的に優れている書き手も少なくない。私もずいぶんと応募作品 から刺激を受けています。もちろんなかには最後まで読むのがつらいとい う作品もありますけど。 ――メルマガの発行元の出版人コムでは「もの書き100人プロジェク ト」という作家育成事業も手がけています。メジャーにデビューする新人 作家は誕生しそうですか。 いずれは誕生すると思いますよ。文芸大賞やエッセイ大賞に応募してい る人たちの職業をみるとさまざまな分野にわたっていますし、「もの書き」 志向の人たちのすそ野は確実に広がってきていると思います。彼らの仕事 体験や人生経験は、小説などを書く場合にけっしてムダにはなりません。 社会、経済の構造も変化していますので、既成作家にはない発想、感性を 生かせば新風を吹き込むことも可能だと思います。このプロジェクトを踏 み台にしてもいいですからぜひ文壇デビューをはたしてもらいたいですね。 数年後の人気作家は、いまどこかの業界で営業マンをやっているかもしれ ないし、コツコツと事務業務などにたずさわっている人かもしれないし、 また専業主婦をやっている人かもしれない。才能、センスのある隠れた素 材の作家を発掘して、できるだけ多くの新人作家を送り出したいというの がスタッフの願いだと思いますよ。 ――出版不況と言われてます。もし作家になったとしても専業で食べて いけますか。 たしかに作家専業でやっていけるのはひと握りの人たちです。流行作家 になれる確率は「志望者」のうちの何十万分の一でしょう。たとえば野球 を例に考えてみてください。地域のリトルリーグで飛び抜けた選手でも野 球の名門高校に入ればレギューラーになるのも大変です。そして名門高校 で甲子園に出場してもプロから指名されるとは限りません。たとえ評価さ れてプロに入団できても一軍に定着するのは何十人にひとりです。さらに チームの中心である4番やエースになってスター選手になるのは数人です。 つまり何を言いたいかというと、流行作家になるというのはスター選手に なるのと同じような確率だということです。 ――そんな夢を砕くようなことを「作家を育成する立場」の人が言うの はまずいんじゃないですか。 いや現実は現実として認識しておく必要があるでしょう。文章を書ける んだから作家になれるはずという錯覚を持つと、自分の作品を過大評価し て他人の指摘を受けつけないようになる。そうなると自己満足で終わって しまうと思いますよ。 ――なるほど。誰でも作家になれますよ、とあおるよりも良心的かもし れない。 原稿用紙に書くよりパソコンで打ったほうが文章がうまく見えるでしょ う。そういう経験はないですか。実は私もパソコンを使いはじめたころは そう思ったんですよ(笑)。 ――もの書き志望の人にアドバイスがあれば。 アドバイスする柄ではないですけど、「書きたいこと」があればドンド ン書いてほしいですね。流行作家にはなれなくても仕事を持ちながら作家 になることは十分に可能なわけですから。作家になるためにはセンスと資 質が必要だと思いますが「書きたい」という情熱を持ち続けることが「作 家への近道」だと思います。 ――最後に読者に一言どうぞ。 私の連載もよろしく。そしてあなたの刺激的な作品も読ませてください。 (聞いた人&話した人 植野満) |