はぐれ記者のマスコミ見聞録  植野満

夢(?)の田舎暮らし

  海や山や畑のある環境の田舎で育ったせいだろうか、最近では人混みの 街中を急ぎ足で歩くのが苦手になり、雑木林や茶畑を見ながらゆっくりと 散歩するのが好きになった。年齢を重ねたせいでもあるだろうが、やはり 本質的には「田舎もん」だからだろう。いずれは、故郷に帰って田舎暮ら しもいいかな、とようやく思えるようになった。
 30数年前に上京し、神奈川、東京、埼玉に住んできた。現在はまだ雑 木林などが残るお茶の名産地である埼玉の郊外に居を構えているけど、故 郷に比べると生活するには便利な”都会”だ。新宿や池袋にも40分ほど で出られるので、仕事をするにも好都合な通勤圏にある。だからいまの生 活環境も悪くはない。
 今年の春、九州の甥っ子の結婚式に出席するために、8年ぶりに帰郷し た。そのときに親類や近所にあいさつに行ったのだが、休日というのにひ とりの子どもにも出くわすことはなかった。子どもの数が極端に少なくなっ ているからだ。聞くところによると、出身校の小学校も中学校も今年から 近隣の町の学校に吸収、合併されたと言う。
 ピーク時には小学校の児童は1000人近くもいたのに、数年前からは 複式学級となり、昨年の児童数は100人にも満たなかったそうだ。つま り半世紀で10分の1に減ったことになる。そうなると合併も当然の成り 行きで、わが生まれた村も急速に過疎が進んでいるようだ。
 生家のあった高台の土地から海の方向を見下すと、田んぼのなかに開通 したばかりの白くて広い新道路が右から左にまっすぐに伸びていた。田舎 の風景にはフィットしない立派な道路だ。(怒られるかな)
 昔は最寄り駅からわが村までは、バスで30分ほどかかった。曲がりく ねった狭いデコボコ道を左右に揺られながら走るので、道から崖に転落し ないかヒヤヒヤしながらバスに乗っていたものだ。ところがその新道路を タクシーで走ると5分ほどで村の入り口に着いた。たしかに交通面では便 利になったものの、なんとも味気ない帰郷の旅になってしまった。
 村の農家はどこも乗用車、軽トラックなど2、3台の車を所有しており、 畑仕事にも買い物に行くにも車を使うという生活環境にある。新しい道路 の開通はみんなから望まれていたようで「便利になったもんね〜」とある 農家のお嫁さんはちょっと自慢げだった。また、都会にあるような近代的 な老人福祉センターも建設されていて、老人の介護ケアや忙しい農家に代 わって一時的にお年寄りの面倒をみるサービスもあるようだ。都会で共稼 ぎをしている夫婦が、幼児を保育園などにあずけるのに、なにか似ている ような気もするなあー。でも福祉センターなどの便利なサービスをひんぱ んに利用できるのは、やはり経済的に余裕のある農家に限られるのも現実 である。
 この数年、田舎暮らしや農業に就職するいわゆる就農についての雑誌や 特集が中高年を中心に受けている。「定年後は田舎で暮らしたい」「脱サ ラして農業をめざしたい」と希望する人は予想以上に多いとか。マスコミ では成功者のケースを紹介することが多いので、「オレもやれるだろう」 と軽々しくチャレンジする方もいるようだが、失敗例も少なくないことは 想像できる。田舎暮らしも結構お金がかかるし、仕事があったり、それな りの年金があったり、経済的な基盤がなければ成り立たないのも実態であ る。
 故郷に帰って田舎暮らしを始めようと思えば、できないことはない。父 親から相続した土地に組み立て式の小さな家を建て、海で釣ってきた魚や、 畑から収穫した野菜などをおかずにしながら自給自足をめざすならば、都 会で暮らすよりは生活費は少なくてすむからだ。田舎暮らしもいいかな、 と思いながらも、しかしながら様変わりしていく田舎の風景にちょっと違 和感があるのも率直な気持ちだ。農家の長男でありながら村から去っていっ た者の「勝手なわがまま」かもしれないけど。
   

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