先輩編集者S氏の言葉 久和山武輝

 S氏は、以前勤務していた会社の先輩編集者である。同氏が定年退職す ることになり、知人友人による送別の会に参加した。会の冒頭で、出版 人に感謝するという題目で約1時間のスピーチがあった。1980年以来20年 余りボランティアで継続して開いていた「本の学校」のさよなら講演で もあった。「本の学校」は本づくりの心と技を次世代に伝達することを 目標に開設された。校長兼講師として地道な活動を続け、会場費だけの 受講費用で存続していた学校も惜しまれて閉校となった。
 講演で電子出版時代とは「紙以外の電子メディアを通じて、人の意思 を伝達する時代である」と語っていた。また、氾濫する情報の中から、 何を選択し、何を読者に伝達してゆくのかという「出版の原点」こそが 問われているのであり、技術の問題は、その役割を果たすための一手法 にしか過ぎないと熱っぽく強調されていた。
 出版不況といわれて久しい。出版の原点を忘れてはいないか。原点を 失っては、迷走するばかりである。身近な先輩の言葉を深く心に刻んで おきたいと思った。

●前のページへ