「立ち読み」に行こう   植野 満

  どうも最近の本屋さんには活気がないなあ、と思うのは私だけだろうか。とくに郊外の小さな個人書店にはほとんど人影が見られない。まるで灯りのついた本の倉庫のような雰囲気さえ漂っている。来店客がいなければ本は売れず、そうなると経営は厳しくなる。
自宅の半径500メートル内には、チェーン展開している書店が3店舗、個人書店が4店舗もある。比較的に規模の大きいチェーン店では、夕方から学生やサラリーマン、OLたちがボチボチと集まってくるので、店内もやや活気づいて本屋さんらしくなる。
 しかし、ほとんどは立ち読みを目的にしているようで、レジに向かうのは来店客の2割ほどにすぎない。それでも積み重ねていけば、一日の売上げはそれなりの額にはなるだろう。
 私も立ち読みが大好きだ。というより中身をパラパラとめくり、目を通してから買わなければ気がすまない性格なのである。立ち読みの時間は1冊につき2〜3分ほどだから自分では許される範囲だと思っている。
 自宅近くのチェーン店に行くと1時間は店内をうろつきながら、つい立ち読みをしてしまう。だから書店員から”立ち読みの常習犯”と疑われているのだろうか、その書店に行くと毎回のように立ち読みをしている私の足もとの引き出しを開けて「在庫確認」をする素ぶりをしたり、本の整頓をしたり、言葉には出さないけど「立ち読みはだめですよ!」と言わんばかりだ。すぐその場を立ち去るとしゃくなので、意地でも数分は立ち読みを続ける。大手書店なのに肝っ玉の小さいことを言うな、という気持ちがそうさせているのかもしれない。
 でもこんな図々しい私でも個人書店には苦手意識が強くなった。あるとき、昼間の散歩の帰りに近所の書店に新刊チェックをするために寄った。店内には私ひとりである。10分ほど書棚を点検したあとに、読みたくなるようなめぼしい本もなかったので、何も買わずに出ようと思ったら、まずいことにレジの人(店主の奥さん)と目が合ってしまった。以前、週刊誌などを何度か買ったことがあり、その奥さんとは顔見知りになっていた。
 そのまま店を出ることができずに「また、雑誌を買いにきました」というような態度をつくりながら、男性向け週刊誌を手に取ってレジに差し出した。もし私のほかに数人の来店客がいれば、何も買わずに済んだのに...。そういうこともあって、それからは人気のない書店は避けるようになったのである。
 書店側からすれば立ち読みばかりの客は商売にならないだろう。でも立ち読み客がいることによって店内に活気が生まれるならば、その雰囲気に魅せられてまた人は集まってくるのではないだろうか。立ち読みをする人たちはもともと本や雑誌に興味を持っているわけだから、いつかは購買客になってくれるはずだ。やっぱり、本屋さんには活気があってほしい。だから立ち読みでもいいから本屋さんに行こうよ。

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