バケツ一杯の汗を   植野 満

 時間のあるときはとにかく歩き回っている。健康のためというよりも歩くことそのものが好きだからだ。2、3時間歩いたあとのあのすがすがしい疲労感はなんともいえずストレスの解消にもなる。
 パソコンで原稿を書いたり、デスクワークを長時間続けていると、体も脳も硬直してしまう。そういうときは1時間ほど自宅近くをウロウロ歩き回ることにしている。そうすると体がほぐれ、ちっぽけな脳ミソの回転もよくなるようだ。
 もっとも平日の昼間に住宅街を中年男がブラブラするわけだから、幼児連れの若いお母さんたちには不審者に見られているのかもしれない。公園や遊び場を通りかかるときにはなるだけ、これから用事で出かけるんですよ、というような素振りを見せながら急ぎ足で過ぎ去るようにしている。これでも地域住民にはいろいろ気を使ってるつもりなんです。
 仕事や遊びで外出したときも時間に余裕があれば、自宅と駅までの区間はバスに乗らず徒歩にする。その距離は歩いたとしてもわずか片道30分しかかからないので、ちょっともの足りない気もするが、それでも往復1時間は「歩く時間」を確保することができる。
 また電車で帰る場合でも自宅の最寄り駅のひとつ手前の駅で降りて、数キロを歩く場合が多い。あまり合理的な行動ではないけれど、そのまま最寄り駅まで乗車していくのがもったいないような気持ちになるからである。こんなに長時間歩けるようになったのは2年ぶりで、「歩ける体調」に戻ったことがうれしい。
 2年前に椎間板ヘルニアを患い、その痛みで思うように歩けなくなった。朝、目覚めると、腰に痛みが走るため痛み止めを飲んでから仕事にとりかかるのが日課となった。それを服用しなければ一日中痛みが続き、憂鬱な日々を送るハメになるからだった。けん引治療やマーサージ、それに軽い腹筋、背筋運動、鉄棒へのブラ下がり運動などのリハビリを繰り返したことが効を奏したのか、手術をすることもなく1年半後にはまったく痛みはなくなった。
 ヘルニアを発症するまではヒマさえあれば1日3、4時間はウォーキングをしていた。冬場はともかく夏場は汗をかきたいために5時間以上も歩き、Tシャツが汗だらけになると、公園の水道を使って水洗いをし、それが乾くまで休息をとり、また歩きはじめるというウォーキング三昧をしていた。私の体は発汗機能が発達していない体質のようで、汗びっしょりという体験に感動さえ覚えたものだ。それがウォーキングに病みつきになったひとつの理由でもある。
 何時間も歩いているともちろん疲労してくる。でもその疲労感が達成感に変わってくるから不思議だ。そして大げさに言えば「生きるエネルギー」がジワジワと沸いてきて、ストレスなんか吹っ飛んでしまう。この夏の目標はバケツ1杯分ほどの汗をかくことである。


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