僅少在庫本がなくなる  久和山武輝

 世間を騒がせる事件が続く中、今年の通常国会では重要な法律が成立 あるいは改正された。商品、サービスの総額表示に関する法改正もその ひとつである。現在は、本体価格だけの表示、いわゆる外税方式が認め られている。ところが、来年四月以降は認められないことになった。
 スーパーやディスカウントショップでおなじみの98円、198円などの 端数価格も来年以降は少なくなるだろう。不動産業界では、1980万円や 2980万円はなくなるだろう。消費が低迷している最中に購買意欲を殺ぐ ようなことを何故急ぐのか疑問である。将来の消費税率引上げを容易に 行なえるための方策なのだろうか。
 出版業界では消費税の導入時に、版元1社平均3623万円の経費を要し たという(日本書籍出版協会調べ)。書籍は再販商品なので、価格表示 の変更に伴う経費は版元が負わなければならないのである。平成9年の 消費税率引上げのときにも、同様な負担があった。定期に刊行する雑誌 の場合は、移行時に表示変更すればいいので影響は比較的少ない。
 深刻なのは書籍である。書籍は通常2〜3年後の完売を目指した見込 み部数で生産し、初版時の価格付けを行なう。増刷する際も同様で一定 期間の在庫を勘案して、生産する。そうしなければ現状の価格では発行 できなくなるのが実情である。版元が負担する在庫維持に要する費用は 年間、1冊あたり100円前後といわれている。それでも、注文に応じるた めに在庫商品をたいせつに保管しているのが、おおかたの版元である。
 現在、既刊書の在庫が約60万書目あるという。超大型書店で店頭展示 され、流通しているのは約20万書目程度である。既刊の在庫書目の大部 分は、超大型書店にも展示されずに倉庫で注文を待っている。
 今回の消費税の総額表示の義務付けに伴い、在庫品について表紙、帯、 スリップなどの改装作業が必要となる。負担に耐え切れない書目や版元 が多くあるだろう。多分、数百部程度の僅少在庫本は廃棄処分となるし、 そうした書目を多くかかえている版元は、経営意欲を失い廃業に追込ま れることになる。総額表示義務付けに伴い失われるものが多いのは残念 である。



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