夢幻流もの書き道場 

最もむずかしいことから挑戦したい


 思えばよく続いているものである。PC版メールマガジン「パウパウ」がついに100号に到達した。最初は週刊、次に隔週刊、そして無理をせずに長期戦の構えで月刊。来年3月で4周年を迎える。出版人コムのほうは創立5週年になる。
 飽きっぽくて短気だった私が長続きするようになったのは、やはり年を取って多少長い目で物事を見ることができるようになったせいだろう。
 反省点としては、もっと強く大きな夢を語りかけるべきだったかなということがある。私はハッタリが嫌いだし、できもしない甘い言葉で誘うことも嫌いである。
 しかし、自分では大きな仕事に取りくんでいく強い意志は持っている。それを世間に公表してしまうと、ウソかハッタリと受け取られてしまいかねない。
 それを恐れて、ほぼできるようなことしか口にしないと、今度は支持してくれている人たちの信頼を損なうことにもなりかねない。「こいつはやる気がないのだろう。ほぞぼそやっていれば満足なのだろう」と。
 そんな迷いがあって、将来の大きな夢についてはあまり語らなかったのである。大言壮語は別としても、自分のやる気を見せなければ人はついてこないものだ。それを多少反省している。
 そこで、これから私が挑戦したことについてお話しておきたい。それはタイトルに書いたように「最もむずかしいことから挑戦したい」ということだ。その意味するところをご紹介する。
 出版業界で最も食べていけない分野の一つが、文芸の分野である。
 売れているのはごく一部の作家だけ。有名作家の初版でさえ、最近では1万部以下になってきている。無名作家となれば、発行してもらうことさえむずかしいというのが実情である。
「出版不況」の時代なので、他のジャンルも不景気であることに変わりがないが、それでもまだましな部分がある。
 たとえばビジネスやハウツー物の本を発行するとしよう。この分野では本の企画、つまりアイデアと内容が良ければ、著者の知名度はあまり重要ではない。
 例えば何々式健康法、何々で何々が治る、何々すればすぐ何々が身に付く、何々で幸福になれる、といった類の本がベストセラーになるのは、内容の善し悪しは別として、アイデアが良いからである。
 こうした本は話題性があるので、新聞・雑誌で新刊紹介や書評欄で取り上げてくれる可能性が高くなる。
 余談になるが、日本では文芸書がいくらベストセラーになったとしても、年間に30万部を超すのが一つか二つある程度。たまに100万部を超える作品が10年に一度くらいあるかないかだ。
 それに比べてコミック本は、その数字が一桁違う。漫画雑誌に連載したものをコミックで発行すると、人気作品はいきなり600万部という数字に達してしまう。書籍の発行者側からみると、信じられない数字なのである。純文学からコミックまで発行している出版社では、文芸の作家に対して、「先生がたは、漫画の作家に食べさせてもらっているんですよ」と言ったとか。コミックの売り上げで、売れない文学雑誌や本を発行できているんですよ、という意味だ。笑えないジョークである。
 本来、我々のようなまだ力がない出版社ならば、こうしたビジネス、実用、一般教養・趣味、健康といった分野から参入するのがやりやすいかもしれない。
 書き手のほうは自分の仕事や趣味で得た知識と経験をもとに書くことができるから、優れた書き手はたくさんいる。読者のほうも、「これは実生活に役に立つ」、あるいは「これは生活の励みと指針になる」と感じるだろうから、本の購入につながりやすい。
 しかしながら、私はもっともむずかしい文芸の分野から取り組んできたし、これからもそうしたいと考えている。
 なぜならば、私は30代までこうしたむずかしさから逃げてきたという想いがあるからである。正面から挑戦せず、楽なほうへ簡単なほうへと人生を歩いてきたという後悔の念がある。
 出版業界の厳しさを知っている人なら、100人中100人が「君だけでなく誰でも文芸分野で成功できないよ」と言うだろう。出版人コムが、零細でもいいからその分野で不動の存在になれる可能性は1%にも満たないだろう。
 それでもあえて文芸分野から挑戦してきたし、これからもそうしたい。これは他のジャンルを無視するという意味ではない。力が分散して失敗しないために、先に文芸でうまくいったら、後から他のジャンルにも取り組むという意味である。
 将来、出版人コムが陽炎のように消えてしまうことがあるかもしれないが、たとえそうなったとしても、我々の蒔いた種がいつかきっと実を結ぶと信じている。実際、短編塾の門下生の中から、将来性のある書き手がどんどん育っている。そういう確信があるから、前を向いて進んでいけるのである。来年にご期待を。

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