夢幻流もの書き道場 

ノンフィクションを書いてみよう(1)


   ノンフィクション作家をめざす方も多いと思われるので、ここで 小説(フィクション)とは違うノンフィクションの特徴について、まとめ てみたい。
 事実って何?真実って何?
 説明するまでもなくノンフィクションは、事実を集め、書き手の分析や評価を加えて書かれたものである。エッセイと違うところは、資料収集と取材により客観的客観的な事実をできるだけたくさん集め、書き手が自分 なりの分析と評価を行うところにある。
 ノンフィクションは事実をベースにしているため、非常に大きな影響力を持つ。それは新聞や雑誌の報道でおわかりの通りだ。あることが「事実」 として報道されてしまうと、それが一人歩きをしてしまい、それが誤報であったとしても打ち消すのは至難の業である。
 そこで、「事実」というものの正体を見ておく必要がある。それに加えて「真実」とは何かについても同様だ。
 わかりやすいように諺にもなっている例を挙げて説明しよう。
 今目の前に大きな象がいたとする。ある作家は「足が丸太のように太いのが象である」と書いた。ある作家は「鼻がホースのように長く、そこか ら水を飲んだり噴いたりすることができるのが象である」と書いた。ある作家は「体が岩山のように大きいのが象である」と書いた。  作家たちが書いたものは、それぞれ間違いなく「事実」である。それは疑いようがない。
 しかしながら、それぞれの文章は、決して象の「真実」に迫ってはいない。
 なぜ、事実を書いたのに真実に迫れないかというと、事実が一面からしかとらえていないからである。象は全体から細部へと観察したり、骨格や 内蔵、さらには習性まで含めて観察した事実を元にとらえていかないと、真実に迫ることはできない。
 あまりに単純な例だから、異論のある人はいないと思うが、現実のノ ンフィクションや報道の中には、これと似たようなことが起きているのだ。
 これは本当の話である。ある芸能人が旅行で外国に行った。某週刊誌の 記者が滞在先のホテルへ電話をかけると、ある女性が電話に出た。
 その記者はその女性が何者かを確かめることなく、そのネタをもとに、「○○○、別の女性と同伴旅行か?」という見出しで報道した。帰国した 当の芸能人が、記事を書いた記者に「事実無根だ」と文句を言ったとき、その記者は「私は事実を書いただけ」と反論した。「女性が電話に出たの は事実」という論理だ。
 賢明な読者諸氏は、その記者の言う「事実」がいかにペテンなのかがおわかりになるだろう。ホテルには掃除やベッドメイキングの女性がどんど ん出入りする。あるいは仕事関係のスタッフの中にいた女性が、たまたま電話に出たのかもしれない。相手を確かめない記事を書くこと自体が、大 きな問題なのである。「事実」を悪用しようと思えば、いくらでもできるといういい見本である。
 書く相手が企業の場合、社風、業績、製品、営業力などのいい面だけを書いても、その企業の本当の姿は出てこない。逆に悪い面だけを書いても 同様である。できるだけ多方面から事実を集め、それを材料にして本当の姿を書くことが大切である。
 書く相手が人間の場合も同様で、成功談ばかり書いても一面的になる。そういう記事は「提灯記事」といって、嘲笑されるだけだ。苦労や失敗の 経験、成功までの軌跡をつかむことによって初めてその人の本当の姿が見えてくる。
 性格的な面も同じで、長所、短所、気質など、様々な面から相手の姿をつかんでいくことが、重要だ。
 そうした多面的事実を元に、書き手が自分の手法で分析することによって、人や企業や物事の真実に迫る文章を書くことができるのである。  書かれる側からすると、嫌なことも書かれることになるから、当然おも しろくないわけで、書き手との関係が悪くなることもあり得る。ひどい場 合には、裁判沙汰にもなる。そこにノンフィクションのむずかしさがある。
 そういう問題は、ひとまず置いておくとして、今まで述べてきたことから取材する前の準備として大切なことは、できるだけで多方面から資料を 収集しておくことである。インターネットや図書館に行けば、書こうとする対象についていろいろな資料を集めることができる。
 ただし、資料を見て予断と偏見を持たないようにしたい。取材はできるかぎり素直な気持ちで行うのが、本当の姿に迫ることができるからだ。
 そして、次が取材。インターネットでたくさんの資料が集まるから、取材は不要だと考えてはいけない。新聞・雑誌、書籍などに書かれているこ とを鵜呑みにしてはいけない。書き手それぞれによって解釈が違っていたり、ひどいときには「まったく事実と違う」というケースがあるからだ。 私の経験では、ほとんどの場合、事前に集めた資料と自分の取材結果がまったく違うものになった。
 だから、書きたいと思う対象(人や企業や事件など)の直接取材は欠かせないのである。
 次回は、原稿にまとめる作業とノンフィクションのリスクについて解説したい。

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