夢幻流もの書き道場  上山明彦著

ノンフィクションを書いてみよう(3)

 取材申込みが無事完了し、取材日が決まったとしよう。いよいよ実際にインタビューすることになるが、ここにも初心者が陥りやすい大きな落とし穴がある。いや、ベテランでさえ自覚していない人がいるから、感性の問題なのかもしれない。
 インタビューで最も重要なことは、相手の話を聞き出すということだ。えっ、「そんなあたりまえのことは、誰だって知ってるよ!」だって。
 確かに誰でも知っていることなのだが、実践できる人がどれくらいいるだろうか?そこが問題なのである。
 
 取材する側は、話し手からエピソード、苦労談、人生観、趣味、恋愛体験など、できるかぎり記事に使えそうな話をたくさん聞き出す必要がある。
 そこで二つの要点が出てくる。
 相手に話をさせること。
 相手の本音を聞き出す質問をすること。
 最初の「相手に話をさせること」は単純なことなのだが、これができない人が少なくない。インタビューに行ったのに、相手よりも自分がしゃべる時間のほうが多いという取材者がいるのだ。
 自分には博識があるという自信があるのだろうが、取材の目的は相手の話を聞き出すことにある。たとえ相手の話が自分と反対の考えであっても、知識の水準に上下があっても、読者には取材相手の話を伝えるのが目的なのだ。取材者が自分の意見を一歩的に述べたいなら、別の紙面を取ってもらうべきなのである。
 相手の話を読者に紹介した上で、取材者の解説や評価を載せる場合があったとしても、それはあくまでも相手の話を詳しく紹介することが前提となる。相手の話を聞かないことには、記事にはならない。
 いや、こういう自分だけがしゃべりたい人、相手の話を深く聞こうとしない人、けっこう多いんだよね。たぶんこういう人は性格的に取材する側に向かないのだと思う。ノンフィクション作家、ジャーナリスト、テレビのインタビューワー、対談の司会者などはやめたほうがいいと思う。
 これ、おしゃべりだからダメというのでもないから注意してほしい。明石家さんまのトーク番組を見たことがあるが、彼は相手の本音を聞き出すのがうまい。自分が機関銃のようにしゃべりながら相手にいいタイミングでいい質問をする。相手もつい乗せられて本音をしゃべってしまう。さんまには「相手の話をもっと聞きたい」という感性があるからだろう。ただ一方的にギャグを飛ばしているタレントとは格段の差がある。
 黒柳徹子も機関銃のようにしゃべる人だが、「徹子の部屋」という対談番組では、ちゃんと相手の話を聞こうという姿勢があり、そのせいか相手も打ち解けた感じで話をしていた。彼女もそういういい感性の持ち主なのである。

 相手の本音を聞き出す質問をすること。
 取材者が相手にたくさんの質問を浴びせ、ふだんあまり話さない内容を聞き出すためには相手の気分をほぐし、饒舌にし、話したくなるような質問をしなければならない。杓子定規の質問をしたって、表面的なことしか話してはくれない。
 当を得た質問をするには、入念に相手自身や立場、社会環境などについて詳細に下調べを行い、相手の書いた本やインタビュー記事について読み、理解し、その上で質問内容を考えることが大切だ。
 当を得ているだけでなく、公表されている話を前提としているから、一段深く踏み込んだ質問になるから、取材される側も、「ああ、この人はこれくらい自分のことを知っているんだ。それくらい私に興味があるんだ」と、心を開いてくれることになる。
 いい加減な準備しかしないで取材に挑むと、取材に失敗し、中身のない記事しか書けないことになる。
 余談だが、筒井康隆がある本の中で、「最近一番腹が立ったことは?」という質問に、「自分の本を読まないでインタビューに来たやつがいたこと」と答えていた。プロの中でもいるんだよね、そういう人が。

 私も雑誌で取材記事を書いていた頃は、毎週のように話題の人にインタビューしていたものだが、最近はやらなくなった。インタビューは楽しかったし、勉強にもなった。「ああ、この人はすごいなあ」といつも思ったものだ。そんなことを考えていたら、またインタビューしたくなった。時間を取って、自分が尊敬する作家たちから直接話を聞いてみたいと思う。時間を効率的に使うことができる体力と精神力をつけなきゃ。期待せず、待っていてください。


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