夢幻流もの書き道場  上山明彦著

「地理プロファイリング」という新しい犯罪捜査法

 もうだいぶ前のテレビ番組になるが、中森明菜主演で「プロファイリング」という推理サスペンスドラマがあった。ご存じのことと思うが、犯罪データをデータベース化し、分析し、犯罪者のパターンを分析する。実際に事件が発生すると、そこに残された犯人の様々な痕跡から犯人像を割り出す操作法のこと。指紋や慰留物よりも心理学的分析が重要な要素となる。科学的捜査が難航した場合、プロファイリングが有効な手段となる。
 最近アメリカでは、これに加えて「地理プロファイリング」という新しい手法が取り入れられている。これについては専門家による翻訳書が出ているので、正確なところはそれを参照していただきたい。

犯罪者プロファイリング―犯罪行動が明かす犯人像の断片
[原書名:Offender Profiling : Theory, Research and Practice〈Jackson, Janet L.;Debra A.Bekerian〉 ]
原書検索(洋書検索へ)ISBN:4762821683
234p 21cm(A5)
(京都)北大路書房 (2000-03-25出版)

ジャクソン,ジャネット・L.〈Jackson,Janet L.〉・ベカリアン,デブラ・A.【編】〈Bekerian,Debra A.〉・田村 雅幸【監訳】
[A5 判] NDC分類:326.34 販売価:\2,310(税込) (本体価:\2,200)
(紀伊國屋書店のデータより)


 ここでは私の知っている範囲でご紹介する。
 過去の事件と犯人のデータを分析していくと、同一犯人による連続殺人事件、連続暴行事件、連続放火事件などの犯行は、事件発生地点を地図で表すと、特定の円の中で発生する傾向がある。
 犯人の心理を分析すると、自分の居住地の近辺で事件を起こすと、すぐ捕まってしまう。かといって、全然知らない土地に出かけて行って事件を起こそうとしても、どこに行ったらいいかわからないし、逃げるのにも困る。自宅よりは遠く、かつ土地勘のある地域がもっとも好都合の場所になるわけだ。
 自宅から遠い、土地勘がある、という二つの要素は矛盾するのだが、その釣り合いが取れる地域を地図に表すと、特定の円を描くのである。
 事件発生地点からその逆を分析すると、犯人が住む地域が特定できる。それが「地理プロファイリング」だ。
 「奈良市の女児誘拐殺人事件」でも、今述べたことは実証されているのではないだろうか。
 実際、逮捕された容疑者は土地勘があったが、被害者宅の配達担当ではなかった。
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「被害者宅は配達区域ではなく、関連もわからない」と困惑していた。 (12/31付け読売新聞記事より)
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 ここで疑問が起こるだろう。「犯人に土地勘があるということなら、周辺の捜査ですぐ犯人を割り出せるのではないか?」
 その答え。東京都内のような密集地を想像してほしい。今杉並区で事件が発生したとしよう。ここに土地勘がある人間は同区だけでなく中野区や世田谷区など、周辺地区にも及び膨大な地域と人口が対象となる。
 ところが、地図上でその捜査範囲を半径5キロ程度の特定の円の中に絞り込むことができたとすると、数倍も捜査が効率的になる。
 これが「地理プロファイリング」の優れている点である。

 実際にアメリカでは、「地理プロファイリング」を使って、10年間かかっても捕まえることができなかった連続婦女暴行犯を逮捕することができた(実は非常に評判の良かった警部が犯人だった)。放火犯の逮捕にも効果を発揮しているという。

  「奈良市の女児誘拐殺人事件」に怒りを覚えて、この原稿を書いている。私は犯罪学者ではないが、凶悪犯罪の増加を憂えている国民の一人として、こういう捜査方法を日本でもどんどん取り入れてほしいと思う。そして今後もこういう事件の犯人をすぐに逮捕するだけでなく、犯行を未然に防ぐようにしてほしいと思う。
 推理作家の皆さんには、こういう捜査方法の普及のために、これを材料にしたいい小説を書いていただきたい。もちろん私も引き続き知識を蓄えて、事あるごとにアピールしていくつもりである。

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