協力して出版の底上げを−−2005年度後期の取り組み(2)
出版業界が不景気であるにもかかわらず、大量の本が世間に出回っていることを前回お話しました。書店で売れなかった本は、返本となって出版社(以後「版元」と呼ばせていただきます)に戻ってきます。 それは在庫となって倉庫に入ります。長期的価値がある専門書や古典の場合、3年くらいかけて在庫本を売り切ることになります。短期勝負で大量に作り、売れ残った本はどうなるでしょうか?在庫にすると税金がかかりますから、断裁して処分、つまりゴミになって廃棄されます。これだけも紙資源、ひいてはパルプ・木材資源の浪費につながります。 この1点だけでも、電子書籍の存在価値はあることがわかります。どうしても紙に印刷して残したい本、その価値がある本、紙にしても売れることがわかっている本だけが世間に出回るようになれば、どれだけ資源の節約になることでしょうか。 私が電子出版に注目しているのは、何も資源問題のためだけではありません。そのメリットについて考えてみましょう。 ●制作コストが低いので、低いリスクで電子書籍が発行できること。 これについては説明するまでもないですね。執筆力や編集技術を抜きにすれば、小学生だって本を出せます。 誰でも出したい電子書籍が出せるということになり、本の種類が多種多様になります。 ●インターネットで宣伝ができること。 これについても解説不要ですね。誰でも低コストで電子書籍をインターネットで宣伝することができます。 ●紙の本で売れるかどうかわからない本は、電子書籍でマーケティングができること。 紙の本で売れるかどうかわからない本は、先に電子書籍で発行し、読者の反応を調べるのがよいと思います。その結果が良いものだけ紙の本で出せばリスクが低くなります。 いったん電子書籍で発行されれば不正コピーが簡単になるとか、紙の本で売れなくなると心配する著者や版元がいるかもしれません。 それについて私はこう考えています。本というものはパソコンの画面で読んでいては楽しめないものです。紙の本になったら、紙で読みたい人が大勢いるものです。電子書籍で人が出たものは、紙の本でも人気が出ます。これからその実例がどんどん登場してくると思います。 逆にデメリットを考えてみましょう。 ●電子書籍は簡単に発行できるので粗製濫造になりやすいこと。 電子書籍の内容(著者の力量)、発行者の編集技術・センスなどを見てみると、ピンからキリまでたくさんあります。 出版活動が盛り上がるために、アマチュアからプロまで裾野が広がることは良いことです。 問題は、電子出版の世界でその頂点に立つトップレベルの本がまだ非常に少ないということです。Jリーグのように、トップレベルのスター選手から小学生のアマチュアまで、層として大きなピラミッドをつくるのがベストであると私は考えています。 そのためには、やはり優れた書き手と作品を継続的に育て発行していく版元や育成組織(我々もその一つです)が必要だと思います。 ●電子書籍の存在が、読み手に知られにくいこと。 大量の電子書籍が出回ると、いくらインターネットで検索できるとはいえ、その存在を読み手に知ってもらうことがむずかしくなります。せっかく優れた電子書籍が発行されても、世間に知られないままということもありえます。 「電車男」のようにマスコミネタとして最適の作品は、大手の版元が飛びつくし、新聞・雑誌・テレビも取り上げやすいのですが、派手さがなくても優れた作品はいくらでもあります。 有名無名を問わず、優れた作品を継続的に宣伝する版元、書店、取り次ぎの取り組みが重要であると、私は考えています。「このサイトに来れば、自分が読みたい本がわかるし評価の高い本もわかる」。インターネットなのですから、そういうシステムがほしいですね。書評サイト、作家自身のサイト、読書好きの人のサイトなども、もちろん存在価値は高まっていくことでしょう。 出版人コムとインターネットもの書き塾でも、この中からプロとして育った作家とその作品については、読者に知られるように継続的な宣伝を行うつもりです。 ●少額決済が、いろいろな面でむずかしいこと。 電子書籍は価格が非常に低くなります。そのことは出版の活性化にとって良いことですが、版元や発売会社にとっては代金回収の手間暇が膨大になることを意味します。たとえば、自分のサイトで100円の電子書籍を販売するとしましょう。その代金を回収するのに、たちまち壁にぶちあたってしまいます。 購入したい人は「たった100円のために、銀行だと振込手数料が210円かかるわ。電子マネーの手続きは面倒だし、買うのをやめようかしら」となってしまいます。 販売する側にしても、「電子書籍を送信したり、100円回収するために確認・請求メールを出したり、口座をチェックしたり、帳簿に付けたりと割に合わないな」となってしまいます。 この問題は非常に大きな問題です。 こういう少額決済は、インターネット+コンピュータ自動処理のシステムが必要です。電子書籍の注文、受注確認、納品、入金、印税支払い、経理処理にいたるまで、ボタン一つで処理できないと、ビジネス的にはとても採算に合いません。 今回、我々が「でじたる書房」と提携したのは、同社が少額決済のシステムを構築し、さらに拡充する取り組みを実践していることが大きな理由の一つです(他にありますが、それは後で)。こういうシステムをつくることは、そう簡単なことではありません。私もいつかは作りたいと考えていたのですが、資金、技術、時間の問題があり、着手できませんでした。「でじたる書房さんはえらい」、とヨイショしておきます。 同社がこういうシステムを持っているのならば、電子書籍の販売や著者への印税の支払いなどは、同社にお願いするのが一番いいと思いました。我々は書き手を育成したり、いい作品の完成をサポートする仕事に専念するほうがよいだろうと。 まだ書くべきことがありますが、長文になってしまったので、それは次回にします。 (続く) (2005.7.1) |