やなせたかし著『アンパンマンの遺書』
前の原稿で、アンパンマンが登場する前後の話を書いたが、いったいなぜ、これほど子どもたちに愛されるのかについては触れなかった。私自身その理由がはっきりわかっていたわけではなかった。 それからしばらくして、岩波書店から『アンパンマンの遺書 この本は一人の遅咲き作家の自伝として読んでも十分おもしろい本である。私の計算では『やさしいライオン』で脚光を浴びたのが49歳(おお、なんと今の私と同じ歳)。アンパンマンで有名になったのが64歳ということになる。何のために描くのか、何を描くのか、やなせたかしも長い間悩んだんだな、と共感する部分がたくさんある。 交友関係もおもしろい。手塚治虫、永六輔、宮城まり子、いずみたく、吉行淳之介などなど、不思議な縁が綴られている。 ここではアンパンマンがなぜ子どもの心をとらえるのか、について簡潔にお話ししたい。次の引用は『あんぱんまん』初版のあとがきからの再引用である。 「本当の正義というものは、けっしてかっこうのいいものではないし、そして、そのためにはかならず自分も深く傷つくものです。(中略)。あんぱんまんは、やけこげだらけのボロボロの、こげ茶色のマントを着て、ひっそりと、はずかしそうに登場します。自分を食べさせることによって、飢える人を救います。それでも顔は、気楽そうに笑っているのです」(『アンパンマンの遺書』、170頁)。 子どもたちはアンパンマンに、本物のやさしさ、献身牲、明るさを持ったヒーローを感じているのだと思う。私は子どもではないから「思う」としか書けないのが残念である。 アンパンマンの人気に火がついたのが1983年頃。私は当時26歳。店頭に並べられた本を見て、「なんだ、これは。こんな本が売れるのか」と、某版元やテレビ局の方々と同じ反応をしていたのである。今から考えると、浅知恵だったなあと思う。やなせたかしさん、ごめんなさい。 絵本作家、児童文学作家の皆さんには一度読んでほしい本である。 |