夢幻流もの書き道場 上山明彦著

自分を救ってくれるものに

 父の見舞いのために実家に帰っていた。何気なくテレビを見ていたら、NHKの短いドキュメンタリー番組「あの人に逢いたい」(注、タイトルが間違っていたらご容赦)で、陶芸家の加藤唐九郎が出ていた。氏の言葉を聞いたとき、「これだ!」と強い衝撃を受けた。ふだんテレビを見ない私が、たまたま実家に帰ったときこの番組に出逢ったのは、たぶん父の最後の贈り物なのかもしれないと思った。
 氏はこう言う。「自分を救ってくれるものにすがって、それ一筋にいくよりしょうがない」。「その人の特技が世に知られたとき、その人が救われる。救われるまで努力するしかない」。
 氏はこうも言う。宗教は欲を捨てろと言う(ここでは仏教のことを指している)。欲をとことんまで捨てたら(生きるという欲もなくなるので)死ぬしかない。それはできない。芸術は欲があるからいいものをつくろうとする。私には芸術しか救いとなるものがない。他のことで世間に認められたとしても、私には救いにはならない。芸術で救われなかったら、それはしょうがない。

 特に解説の必要はないと思う。氏は世間から非難されたり評価されたりと辛酸をなめつくした人である。それだけに氏の言葉には深い意味が込められている。自分の魂を救ってくれるものに全力をつくし、それが世間にも尊ばれることが最高の人生だ。どこまでやれるかわからないが、結果以前の問題だ。私は氏の言葉に励まされた。ささやかながらそういうふうに生きてみたいと思う。