夢幻流もの書き道場 上山明彦著

起承転結がよくわからない小説

 最近もの書き塾のある塾生から質問をいただいた。プロ作家の本を読んでも「起承転結がはっきりしないものがある。自分の作品を書く場合、どんなふうに起承転結のある筋を書けばいいのかよくわからない」という質問であった。
 さらに、構想力と鍛える方法についてもアドバイスを求めていた。
 他の塾生にも重要なことであると思われるので、ここで私の考えをご紹介することにした。

(1)中間小説系には起承転結がわかりにくいものがある

 具体的に作家の作品の構成を研究したにもかかわらず「起承転結がよくわからないものが多い」と、その塾生が指摘していたが、事実そういう作品もたくさんある。
 私はレッテルを貼るのは好きではないのだが、よく言われている「中間小説」系の作品には、その傾向が強い。その塾生も実際「中間小説」を好んで読んでいることがわかった。
 いわゆる「純文学」系の小説も同様に起承転結がはっきりしないものが多くある。
 ただ時間の流れに任せて、人物が登場し、なにかちょっとした出来事があり、情景描写があり、なにやら結論がよくわからないままに終わる、というような小説のことである。本当はそれはそれで起承転結があるのだが、読み手にとっては随筆のように思いつくままに書いてあるように見える。
 「純文学」や「中間小説」系作品では、殺人事件やスパイの暗躍や斬り合いのような大事件は起きない。発生するのは家族の諍い、恋愛のもつれ、不倫、友情の亀裂、いじめなど身近な出来事である。友人が訪ねてくるだけという事件とは言えない出来事の場合もあり、志賀直哉のように療養先の散歩道で蝶を見たというかなり日常的な出来事の場合もある。
 
 このような小説では、その「事件」が急展開することもあまりなく、結末ではっきりと解決しない場合が多くなる。「その後のことは読者のご想像にお任せする」と言っているような小説もたくさんある。そういう実情があるということをまず確認していただきたい。
 初めて小説を書いてみようという人には、この手の小説の書き方はわかりにくいに違いない。それで教材の中では推理小説を題材に取り上げているのである。

(2)推理小説にみる起承転結について

 塾の教材では起承転結とストーリー展開の基本がよくわかるように、主に推理小説を取り上げている。それは次のように起承転結と事件の展開が直結していて、非常にわかりやすいからだ。典型的なパターンを紹介してみよう。
●「起」で事件の前触れがある。
 推理小説ではほとんど殺人事件が発生するが、その前触れがここである。あるいは冒頭で殺人事件の発生があったことが述べられる。
 そして事件を解明する主人公(探偵や刑事など)が登場し、事件に関係する人物が登場する。彼らの人間像が流れの中でさり気なく紹介されていく。
●「承」で犯人像に迫っていく。手かがりから犯人が浮かび上がってきて、犯人はしだいに追いつめられていく。
●「転」で事件の急展開がある。犯人に間近に迫る。犯人が反撃したり、逃亡したり、主人公が窮地に陥ったりしながら、犯人と闘う。
●「結」で事件が解決する。犯人が逮捕され、事件の真相が解明される。残された人々のその後の人生が暗示される。

 このように推理小説は起承転結と事件の展開がみごとに一致しているので、小説を書く上でいい勉強になるのである。SFファンタジー、時代小説、冒険小説なども同様に起承転結と事件の展開がはっきりしているので、そういうものもやはりいい勉強になる。

(3)意識して展開を考えよう

 書き手の問題として、推理小説のような起承転結がはっきりしている作品がよいか、中間小説のような作品がよいかというのは断定できるものではない。
 要は書き手の気持ちの問題である。何を描きたいのかが問題である。嫌いなものを書く必要はない。こういうテーマで、こういう雰囲気のものを書きたいというのであれば、それを追求するべきである。

 その場合大切なことはただ漠然と書くのではなく、日常生活に近い出来事があり、それをストーリーの中心に据え、その後の意外な展開をするのではなく、結末もあまりすっきりとしない結末で終える、ということを意識して書くことだ。
 そういう話の流れの中で、「私は読み手にこういうことを感じ取ってもらいたい」ということをはっきり意識して書くことである。

 読者対象を意識することも大切である。老若何女に共感してもらおうなどとは考えるべきではない。司馬遼太郎は常に「三千人くらいの読者には自分の気持ちがわかってもらえるだろう」と思って書いていた。
 自分と同性・同世代の人々、小学生・中学生、若い世代のOL、中高年など、できるだけイメージがはっきりしている層を、自分の作品の読者対象の中心に据えていただきたい。
 実際にその作品が発表された後は、別の世代に高く評価されるかもしれないが、それは結果であるから、執筆中にそこまで考える必要はない。
 今述べたような気持ちがあれば、しっかり読み手の心をとらえることができると私は考えている。

(4)構想力を鍛える方法

 起承転結がわかったとして、今度は構想力を養うためのアドバイスである。
 多くの作家が日常的にやっていることであるが、何かいいアイデアなり構想なりが浮かんだら、すぐその場でメモを取ることだ。ノートでもよし、手帳の隙間でもよし。自分のためのメモであるから、きちんと文章になっている必要はない。記号でもよい。思い出す手がかりとなればよい。
 メモする内容は、事件のヒント、話の展開の中で使える出来事、セリフ、うわさなどである。電車で聞いたこと、新聞・雑誌や本を読んでひらめいたことなど、なんでもかまわない。
 例えばある友人、知人の恋愛話を聞き、その結末がどうなったかをヒントにして、自分の作品にアレンジして取り入れることもできる。
 そのアイデアが集まったらすぐに書き始めるのではなく、1週間あるいは1ヶ月経ってから読み直して見て、それでもまだ「これはいい作品になる。ぜひ小説として完成させたい」と思えるものを絞り込み、書き始めることである。

(5)読者が求めるもの

 最後に、読者の視点についてもよく考えていただきたい。自分の作品を読んで、読者は何を得るのか?という点である。
 読者が小説に求めるものは多彩である。ただ楽しい気分にさせてくれることを期待する人もいれば、逆に悲しい気分に浸りたい人もいる。恐い場面に遭遇したい人、ロマンチックな気分に浸りたい人、生きる勇気を得たい人、人生哲学を求める人、知識を求める人など様々である。
 ストーリーを考える場合は、常に読者の視点からも見直してみる必要がある。近くにいいアドバイザーがいるならば、「こんな話を思いついたんだけど、どう?」と聞いてみる。あるいはある程度原稿が書き上がった段階で読んでもらうのが一番である。

 何を書くのかというのは、あくまでも書き手が判断することであるので、私が「こうしたほうがよい、ああしたほうがよい」ということは言えない。私にできることは、塾生の皆さんが判断するための材料を提供することだけである。
 以上、皆さんの参考になれば幸いである。