らく  ぶん きょう  しつ   
小中学生のための文教室       上山 明彦著

小説や童話を構成している要素を知ろう(4)−人物描写

 あなたが誰かを見ていて、その人の気持ちがわかるとしたら、それはなぜでしょうか?神様か超能力者でもないかぎり、相手の心の中まで読み取ることはできません。わかるとしたら、相手の表情か、態度、しぐさ、あるいは言葉(セリフ)から心理を読み取っているわけです。
 小説を書く場合、登場人物の心理を描き出すよりも、その人物の表情、行動、態度、しぐさを詳しく描いたほうが、読み手によく伝わる場合があります。むしろそのほうが実生活に近いわけですから自然でもあります。この言葉(セリフ)を除いたものが人物描写です。
 また、小説を「神様の視点」から書くのなら登場人物全員の心理を描くことができます。
 しかし、「私の視点」から書く場合は、主人公以外の登場人物の気持ちを描くには、人物描写と言葉で表すしかありません。
 こちらのほうが実生活に近いわけですから、むずかしく考える必要はありません。日頃から人の感情と行動、態度、しぐさをよく観察し、それを文章で表現してみることです。
 簡単な例を紹介しましょう。
 誰かに好きな人のことを聞かれたとき、顔がぽーっと赤くなる人がいますね。何か考え込むとき、視線がふと下に落ち、目が輝きを失うことがあります。泣くときは何かを訴えるような目で相手を見つめたあと、視線を落とすと同時に涙があふれてきます。
 人が怒ったときは、イライラして頭を掻き上げたり、拳を強く握ってブルブル震えたりします。
 何か言いたいことがある人は、相手の目をしっかり見て、強い視線をぶつけてきます。何か後ろめたいことがある人は、相手の視線を避け、顔をうつむきかげんにします。
 遠くから見た場合でも、元気がない人は肩を落とし背中を丸め、重い足取りで歩いています。楽しい気分の人は、胸を張って、軽い足取りで歩いています。
 こんなふうに人の気分というものは、表情や態度に表れるものです。
 欲をいえば、表現するときは自分の言葉で書くことです。だれでも思いつくような表現はできるだけ避けるようにしましょう。
 このあたりは女流作家が非常にうまいですね。よく人を観察しています。次の引用は、家が貧しくて朝も昼も食べることができず、おなかをすかせている女の子に蕎麦(そば)を食べさせる場面(時代小説)です。女の子はプライドがありますので、空腹であることは隠そうとしています。
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 が、運ばれてきた蕎麦のにおいに、おけいはたまりかねたように顔を上げ、手を出して取ろうとして耳朶まで赤くした。
 「遠慮するこたあねえやな。お前の分だ」
 それでもちょっとためらってから、おけいは深々と頭を下げ、箸を取った。
 (中略。ここで黙々とそばを食べる場面の描写がある)
 おけいが丼から顔を上げたのは、つゆの中に何もなくなってからだった。
 (『深川澪通り木戸番小屋 (講談社文庫)』、北原亜以子、講談社文庫、34頁)
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 何気なく読み飛ばしてしまう文章ですが、自分で書いてみると、この作家のうまさがよくわかります。

 話を整理すると、人の気持ちというものは心理描写と人物描写と言葉(セリフ)で表すことができます。今回は人物描写について説明しました。ストーリーの流れの中で、どれを使うのがもっとも盛り上がるのか、迫力が出るのか、よく考えて使うようにしましょう。
 次回はセリフについて紹介したいと思います。

(2007.11.10)

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