らく  ぶん きょう  しつ   
小中学生のための文教室       上ノ山明彦著

小説や童話を構成している要素を知ろう(5)−セリフの描写

 当たり前の話ですが、小説にはセリフが出てきます。セリフは映画や漫画にも出てきます。そういうところから学べるものもあります。私の会社で開催しているインターネットもの書き塾の塾生に小説を書いてもらうと、皆さんセリフが非常にうまいです。ふだんから言葉にこだわっていることがよくわかります。皆さんは友達と話をするときにも、相手の言葉の中にひそむ微妙な感情の意味を敏感に感じ取っていることでしょう。それでいいのです。
 ここではセリフそのものよりも、小説や作文でのバランスについて話したいと思います。
 ある場面で、登場人物の感情を描きたい場合、心理描写でも人物描写(表情、態度、しぐさを含む描写)でもセリフでも表現することができます。その場面ではどれを中心に使ったほうが読み手によりよく伝わるか、それを考えて書くようにしましょう。
 よく見かけるのですが、二人が登場する場面で、数ページにわたって長々と二人の会話だけで話を進めていく書き手がいます。会話なので一見読みやすいのですが、後で頭の中に残る部分が非常に少ないことに気付きます。読み手はその場面を頭の中で映像化しながら読んでいくわけですが、人物描写、心理描写、情景描写が全然ないと映像化することができません。ちょうどいい分量でそういう要素を盛り込んでいくと、非常にいい雰囲気になります。
 必要に応じて、セリフで表現することを避け地の文で書くことも考えるのがよいでしょう。地の文というのは、カッコ「」でくくられていない普通の文のことです。
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 「おめえの責任だ」
と、太郎が言った。
 「そんなの関係ねえ」
と、次郎が怒った。
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 これを地の文で書くとこうなります。
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 太郎は、次郎の責任だと言った。次郎が怒って、そんなの関係ねえと言い返した。
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 あまり迫力のないセリフが長々と続くよりは、間に地の文を入れて話を進めていったほうが読み手にとっては読みやすくなるのです。
 ひとり言は、セリフとして書いてもかまいませんが、たいていの場合、地の文で書いたほうがすっきりします。
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 こいつはどうしようもないな、と太郎は大きなため息をついた。
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 地の文で書いても、ひとり言であることはわかります。心理描写や人物描写の中にどんどん差し込んでいってかまいません。

 セリフで表現する場合は、流れのままにだらだらと書いていくのではなく、登場人物の心の動きをもっともうまく表すように工夫しましょう。同じ意味のことでも言い方によって微妙に意味合いが違ってきます。ときには読み手を深く感動させることができます。

 セリフの使い方で、もう一つ重要なことがあります。セリフには男女の性別と年齢が表れるという点です。
 これは説明するまでもないことですよね。日本語にははっきりと男言葉と女言葉の区別があります。最近は若い世代の女性が男言葉を使うようですが、基本としてははっきりと区別があります。
 男女の会話を描写したい場合、最初だけ誰と誰が登場しているかを示しておけば、あとは省略することができます。
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 太郎が花子を喫茶店に呼び出した。
 「おまえは俺と五郎のどっちが好きなんだ?」
 「どうしてそんなこと聞くの?」
 「はっきりさせたいからだよ。落ち着かないんだ」
 「わたし、自分の気持ちがよくわからないの」
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 とまあ、こんなふうに、「」のあとに誰が言ったかを書かなくてもよくわかりますね。これは重要な要素ですので、しっかり意識して書いてください。
 なお、どんな場合でも必要に応じて人物描写を入れることは大切ですのでお忘れなく。
 年齢についても、幼児、児童、青年、若い社会人、中年、老人の使う言葉は特徴があります。ある程度の使い分けができます。
******************  中年夫婦と女の子、それに祖父母が公園にやってきた。
 「おじいちゃん、あそぼ」
 「うん、いいよ。花ちゃんや、なにして遊びたいかい?」
 「かけっこ!」
 「あなた、もういい年なんですから、体にわるいですわよ」
 「そうだよ、父さん。私が代わりますよ」
 「そうね、かけっこはパパにまかせて、おじいちゃんは写真でも撮っていただけますか?」
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 とまあ、こんなぐあいです。話をさっさと展開したい場合、読んですぐに話し手が誰かわかるというのは重要な要素です。
 特定の職業や階層に属している人々特有の話し言葉もあります。ある登場人物にそういうセリフをはかせることによって、その人の背景を類推させることもできます。

さて、もっとも重要なのは、セリフそのものは味わい深いほうがよいということです。
 誰でも知っている『星の王子さま』の次の言葉は、よけいな言葉がなく簡潔で意味が深い名言です。
「ほんとうに大切なものは目に見えないんだよ」
この言葉で十分ですが、わざと別な言葉に変えてみましょう。
「お金とか学校の成績とか、目に見えるものはほんとうに大切なものではないんだ。 愛情とか友情とか、人にとってほんとうに大切なものは目には見えないんだよ」
 なんか「金八先生」みたいに説教くさくなってしまいました。説明しすぎると、こうなってしまいます。
 私たちがセリフを考える場合は、くどくならないように、すっきりと、それでいて味わいがある、意味が深いセリフを書くようにしたいものです。そのためにはいい小説を読んだり、いい映画を見たりしながら名セリフをたくさん味わってみることです。そうしているうちに自分なりのセリフが頭に浮かんでくることでしょう。

(2007.11.13)

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