らく  ぶん きょう  しつ   
小中学生のための文教室       上ノ山明彦著

小説や童話を構成している要素を知ろう(6)−セリフの描写のつづき

 前々回にセリフの書き方を説明しました。小説や童話に書かれている具体的な例を紹介しようと思います。
 初めは『橋の下のこどもたち』の中のセリフです。ホームレスのアルマンじいさんが、久しぶりにジプシーのミレリの会います。会話がこどもたちの話になったとき、アルマンじいさんは、こどもはうるさくて嫌いだと言います。
 それに対して、ミレリがこう言います。

 「いいや、ちがう。あんたは、こどもがきらいなんじゃない。こわいんだよ。あんたは、あったかい心のもちぬしさ。それに気づいたこどもたちが、あんたの心をぬすみにくるのがこわいのさ」

出典:『橋の下のこどもたち』、14頁、ナタリー・サベッジ・カールソン作、なかがわちひろ訳、フェリシモ出版発行。

 ほんとはこどもたちが好きなんだけど、わざと嫌いなふりをしているアルマンじいさんの心をズバリと言い当てたセリフです。翻訳もうまいですね。手本にしましょう。

 次は、浅田次郎の『鉄道員(ぽっぽや)』です。最後のほうで、鉄道員の乙松のところに、死んだ娘がよみがえって親孝行をします。その理由をこう言います。

「したっておとうさん、なんもいいことなかったしょ。あたしも何ひとつ親孝行もできずに死んじゃったしょ。だから」

出典:『鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)』、42頁、浅田次郎著、集英社文庫。

 この前後は、娘を持つ父親世代にとっては涙が止まらないシーンです。子供である皆さんは親になったらわかると思います。
 セリフというのは、時と場合によっては、深く人の心を打ったり、逆に人を深く傷つけたりします。文字にした場合は、言葉の重みがいっそう増してきます。それだけに書き側は神経を使うことが大切です。

 今年はこれで終わりです。来年も続けていきますので、気長にお付き合いくださいね。良いお年を。
(2007.12.29)

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