ルイスによると、子どものための本を書く人には三通りあるそうで、その一つは、子どもにへつらう人、これはもう駄作ばかりになります。またつぎには、あるきまった子ども、じぶんの子とか、友だちの子のために書く人たちで、これには傑作ができることが多く、ルイス・カロルやケネス・グレアムやトールキンがそうだといいます。そして第三に、子どものために空想というものを使って書くという、物語の形式が、じぶんの気にいっているためにそれを試みるごくわずかな人がいて、このなかにじぶんは入ると、ルイスはいうのです。 (出典、『ナルニア国物語1 ライオンと魔女』、C.S.ルイス著、瀬田貞二訳、「訳者あとがき」、248ページ) 第1のタイプは、「子どもにへつらう人」。これはこう書いたら子どもが喜ぶんじゃないか?と、子どもにうけることばかりを考えて書く人のことを指しています。子どもの心が純真だからといって、子どもが喜ぶ作品がすべていい作品とは限りません。子どもは高度あるいは複雑な判断力を持ちませんから、単純な仕掛けでも喜んでしまうところも持っています。いわゆる「子供だまし」が通じる部分があります。そういうことをルイスは指摘しているのだと、私は解釈しています。 そういう作品は世の中にたくさん出ています。懸賞でそういう作品が受賞するケースもよくあります。これは本をつくる大人側の問題です。手っとり早く本を売ってお金を儲けたいか、作品を見る目がないか、そのどちらかでしょう。情けないことです。 第二のタイプは、「じぶんの子とか、友だちの子のために書く」タイプです。こういうタイプに傑作が多いという理由は、書く動機の純粋さにあると思います。自分の愛する子どもたちのために伝えたいことがあり、そのために工夫をこらして心からわき出る言葉で書く。そこには金銭欲や名誉欲はありません。そういうところから傑作が生まれてくるのだと思います。 自分の身の回りの子どものために書くからといって、よその子どもにはおもしろくない、共感できないということではありません。誤解しないでください。傑作、名作というのは、どの子どもにも通用する内容を持っているものです。むずかしい言葉で「普遍性(ふへんせい)がある」といいます。書き手の心の底から出た愛情あふれる子どものためのストーリーがそこにあるのです。 この文章を読んでいるあなたが小中高生ならば、自分の弟や妹のためでもいいし、友だちのために書くというふうに受け取ってください。そういう気持ちで書くと、とてもいい作品が書けます。 第三のタイプは、少し説明が必要です。ルイスは英文学の教授でしたが、キリスト教神学者でもありました。彼は「子どものための空想」小説という形式をとって、自分のキリスト教の考え方を伝えたかったのです。そう考えると彼の言う「子どものために空想というものを使って書くという、物語の形式が、じぶんの気にいっているためにそれを試みるごくわずかな人がいて、このなかにじぶんは入る」という意味がわかることでしょう。 これについても誤解しないでください。『ナルニア国ものがたり』は説教くさくありませんし、キリスト教に関係ない人でも、冒険ものがたりとして楽しめる小説になっています。名作というものは、表面ではおもしろくて楽しいストーリーが繰り広げられます。書き手の心の底にある考え方を表だって感じさせないものです。深くじんわりと伝わってくるものです。 日本の作家でたとえるならば、宮沢賢治でしょうか。彼も仏教を深く信仰していた作家でしたが、作品には説教臭さがありません。楽しかったり悲しかったりさせられながら、それでいて深い何かを感じさせてくれます。そういうところは共通しています。 では、あなたがファンタジー小説を書こうとする場合、どのタイプに入るでしょうか?よく考えてみてください。 最後に、ルイスはどんなふうに作品を書いていたのでしょうか?ルイスは、これらの物語をどのようにして書いたかについて、つぎのようにのべています。 「ある意味からいいますと、私は物語をこしらえたことがありません。私にとって物語のできていく過程は、語る働きや構築する働きよりも鳥を観察する働きに似ています。私には、まず姿様子が見えます。その姿は、ある一般的な味、むしろにおいといったものを持って、より集まってきます。なおも静かにして、ただ見守っていますと、それはしだいに、よりあいまとまりはじめます。そしてうまくいきますと(私は、すっかりうまくいったことがありませんが)、きちんと全体がみごとにまとまりあって、じぶんから何をするまでもなく、一個完全な物語ができてしまうわけです。けれども、しばしば(私はしじゅうですが)、そこに穴があきます。その時は、やむなくいろいろと工夫をして、登場人物たちが、さまざまな場所でさまざまなことをする理由をこしらえなけれはならないのです。……これが、私の知っているただ一つの創作方法です。イメージが、いつも最初に浮かぶのです。」 (出典、『ナルニア国物語1 ライオンと魔女』、C.S.ルイス著、瀬田貞二訳、「訳者あとがき」、249ページ) こうなると、持って生まれた才能や子どもの頃からの創造力がどれだけ育っているか、といった問題になるでしょう。 小中高生のみなさんは、脳がまだ柔らかいので、これからまだまだ創造力を伸ばすことができます。自信をもってください。 |